あなたの力を貸してください
狭山事件の犯人とされた石川一雄さん(83歳)は事件から59年が経った今も、無実を訴え続けています。
今年8月29日、狭山事件の弁護団は東京高裁に対して、有罪の決め手とされた「万年筆」についてインク資料の鑑定とこれまでに提出した新証拠の鑑定人11人の証人尋問を求める事実取調請求書を提出しました。
足利事件、布川事件をはじめ、これまで再審で無罪となったえん罪事件では鑑定人尋問や裁判所による鑑定の実施など新証拠に関わる事実調べがおこなわれています。
狭山事件で有罪の根拠とされた証拠のすべてが弁護側の科学的な鑑定により証拠価値を失っています。私たちは、事実調べの実施を求めています。万年筆インクの鑑定と11人の鑑定人の証人尋問を求める署名にご協力をお願いします。
狭山事件とは
1963年5月1日、埼玉県狭山市で女子高校生が行方不明になり、脅迫状がとどけられるという事件がおきました。警察は40人もの警官を張り込ませながら身代金を取りにあらわれた犯人を取り逃がし女子高校生は遺体となって発見され、警察に世論の非難が集中しました。
捜査にいきづまった警察は、付近の被差別部落に見込み捜査を集中し、石川一雄さん(当時24歳)を別件逮捕し、1カ月にわたり警察の留置場で取り調べ、ウソの自白をさせて、犯人にでっちあげました。一審は死刑判決、二審では無期懲役が確定しました。
石川さんは再審請求を申し立てましたが第1次再審、第2次再審は一度の事実調べもなく棄却。1994年12月石川さんは仮出獄し、2006年5月に第3次再審を請求。2009年9月から裁判所、検察、弁護団による三者協議が開かれ、裁判所は検察に証拠開示を勧告しました。開示された証拠に基づき弁護団によって次々と事件の新証拠が明らかにされています。
万年筆の新証拠
インクが違う
石川さん宅から自白通りに「発見」され、有罪の有力な証拠とされてきた「被害者のものとされる万年筆」が、実は被害者のものではなかったことが新証拠で明らかになっています。
専門家が蛍光X線分析をおこなったところ、被害者が事件当日に学校のペン習字で書いた文字のインクと被害者の日常的に使っていたインク瓶からは「クロム元素」という成分が検出されています。
しかし、石川さん宅から「発見」された万年筆のインクからはクロム元素は検出されませんでした。
事件当初から万年筆のインクの違いは指摘されてきましたが、有罪判決では「被害者が郵便局に立ち寄りインクを補充したことも考えられる」として有罪の証拠とされました。しかし、クロム元素がないことは別インクの補充では説明できません。
検察は「被害者が万年筆を水洗いしたことも考えられる」と主張していますが、なんの根拠もありません。
弁護団は、弁護側鑑定人の証人尋問とともに、裁判所が第三者の専門家による鑑定をおこなうことを求めています。
不自然な発見経過
疑惑の万年筆は事件から2ヶ月近くたった6月26日におこなわれた3回目の捜索で発見されました。発見場所はお勝手の入り口の鴨居(戸の上の木枠)の上(高さ175.9cm、奥行き8.5cm)で目につかない場所ではありません。
万年筆が発見される前に警察は石川さん宅の徹底した家宅捜索を2度おこなっています。それぞれ10数人の警察官によって2時間以上かけた捜索がおこなわれましたが、万年筆は発見されず、なぜか3度めの捜索時に発見されました。
この万年筆については捜索に加わった元刑事が、「鴨居も確かに捜した。私自身が自分で手で触って確認したが、万年筆はなかった」と明言。さらに「のちになって、その鴨居から万年筆が発見されたと聞いて驚いた」「大きな事件だったので、今まで言い出すことができなかった」と証言しています。
2度めの捜索時に鴨居の前に脚立が立てられている写真も残されています。
11人の専門家が提示した
新証拠
狭山弁護団は、裁判所に万年筆のインクの鑑定を求めるとともに、脅迫状の筆跡・識字能力、指紋の不存在、足跡、スコップ、血液型、目撃証言、犯人の音声、万年筆、自白、殺害方法、死体処理について鑑定した科学者、専門家11人の鑑定人尋問を求めています。これまでに提出された新証拠を抜粋して紹介します。
※このページで掲載した証拠の写真は弁護団が新証拠提出の際に撮影したものです。転載を禁止します。
#1石川さんは非識字者で脅迫状は書けなかった
小学校に十分に行けなかった石川さんは24歳の事件当時もほとんど読み書きができませんでした。
証拠開示された取調の録音テープでは警察官が石川さんに文字の書き方を教えている場面がありますが、石川さんが取調で書いた文字はほぼひらがなで、小さい「っ」なども正しく書けていません。
長年、識字学級の実践にかかわった鑑定人は当時の石川さんは非識字者で、脅迫状を書けたとは考えられないと鑑定しています。
#2脅迫状の筆跡は99.9%別人
狭山事件では犯人が被害者の家に届けた脅迫状と石川さんが書いた上申書の筆跡が一致するとして有罪の証拠とされています。
画像解析を専門とする鑑定人はコンピュータを用いた画像解析法を活用した筆跡鑑定で、脅迫状と上申書に共通する「い」「た」「て」「と」の4文字を重ねあわせたときのズレを計測。
その分布を調べたところ、99.9%の識別精度で別人が書いたものであるという結果が出ています。
#3脅迫状・封筒に石川さんの指紋はない
長年、指紋検査にたずさわってきた元警察鑑識課員の鑑定人は、石川さんの「自白」と有罪判決の認定をもとに、脅迫状・封筒の作成を再現。
「自白」どおりに大学ノートを破り、脅迫文を書き、封筒に入れてズボンのポケットに入れ、雑木林で訂正、被害者の家に届ければ、指紋が検出されることを確認しました。
脅迫状・封筒から石川さんの指紋が一つも検出されなかったことは石川さんが脅迫状にも封筒にも触れていないことを示しています。
#4現場の足跡は押収された地下足袋(じかたび)のものではない
有罪判決は犯人が現れた現場に残された足跡は石川さん宅から押収された地下足袋によるものだとして有罪の証拠としています。
東京高裁に保管されている現場足跡などを3次元スキャナを用いて検証。
計測データにもとづいて、現場足跡と地下足袋での足跡を重ね合わせ「破損痕」とされた部分の立体形状に大きな差異があり、両者が符号するとはいえないと指摘しています。
#52回の捜索時に鴨居に万年筆はなかった
有罪判決では「2回の捜索時に万年筆は鴨居にあったが発見されなかった。」としてその理由を万年筆があった場所を「見落としやすい場所」だからと認定しています。
心理学者の鑑定人が正確に復元されたお勝手を使って目的物を探す心理学実験をおこなった結果、捜索経験のない素人の大学生でも12人の被験者全員が30分以内に鴨居の上の万年筆を発見しました。
この実験結果を踏まえれば警察官による2回の捜索で万年筆が発見されなかったことは合理的に説明できません。1、2回の捜索時に鴨居に万年筆はなかったのです。
#6事実と違う「自白」の殺害方法
自白では、被害者の首を手で締めて殺害(扼殺)したことになっていますが、被害者の首には扼殺の場合にできる指や爪でできた痕跡がまったくありません。むしろ首の前面には左右に走る白い帯状の痕跡など布のようなもので締めた「絞殺」の特徴が見られることを何人もの法医学者が指摘しています。殺害方法の自白は死体の客観的状況とくいちがっていることを明らかにしています。
#7犯人の血液型はB型と断定できない
被害者の体内に残された精液の血液型は石川さんと同じB型と判断されましたがその検査方法に疑問が残ります。ABO式血液型検査は通常赤血球の抗原を検査する「オモテ検査」と血清中の抗体を検査する「ウラ検査」を行い、一致すれば最終的な判定になりますが、警察医は「オモテ試験」のみで判断しました。
鑑定人は警察医の鑑定方法、鑑定結果は妥当ではないと指摘しています。
#8発見されたスコップは遺体を埋めるのに使われたものとは断定できない
死体発見現場近くで発見されたスコップは被害者を埋めた時に使ったもので石川さんが以前勤めていたI養豚場のものとされれています。
警察の鑑定では死体発見現場そのものから土を採取せず、死体発見現場付近に穴を掘って採取し判断しています。
鑑定人は現地で地質学的調査も行い複雑な土の堆積の様相をしており、死体発見現場の近くだとしても土の堆積状況が全く異なる可能性が高いと指摘しています。
#9目撃証言の確認方法が不十分
狭山事件は、連日報道されるほど大きな事件でした。被害者宅の4軒隣に住むUさんは事件から一か月以上経過したあとに「事件当日に被害者の家をたずねてきた男がいた」と警察に届け出ました。警察はUさんに石川さん一人だけを見せて同一人物かどうかを確認させました。
心理学者の鑑定人は、容疑者一人だけを見せて判断させるのは「この人が犯人だ」という暗示を与え、先入観を植え付け間違った証言をする危険性が高いと指摘しています。
#10声が似ているとする証言は信用できない
犯人が身代金受け渡しに現れたときに被害者の姉と同行した男性が10分ほど会話をしています。二人はその時の犯人の声が石川さんの声と似ていると証言しています。
心理学者の鑑定人は、声が似ているという証言は、捜査官からの暗示の影響を強く受けていることや声だけの鑑定は諸外国では目撃証言以上にえん罪をうむ危険性が高い証拠とされています。
#11証拠の万年筆は被害者のものとはいえない
石川さんの自白によって石川さん宅で被害者の万年筆が発見されました。
証拠開示によって発見万年筆によって書かれた数字のインクと被害者が事件当日、授業で書いたペン習字浄書のインクなどに含まれる元素を調べた結果、被害者が使っていたインクにはクロム元素が含まれていましたが発見された万年筆には含まれていないことがわかりました。
蛍光X線分析の鑑定によって、発見された万年筆が被害者のものでないことが科学的に証明できました。